不老不死のおっさんと、おっさんが人間だった頃の友人そっくりな青年と少年は不思議と気があった。
小さな衝突はあったが、それでも別れることなく一緒に歩みを進める。汽車や飛行機を主な移動手段としていたルルーシュには、徒歩とバスを中心とした移動はかなり大変らしく、碌に舗装されていない道を長時間走るバスの中では完全にグロッキーになっていたし、歩つかれて動けなくなるとスザクが背負って運んでいた。ルルーシュ+自分の荷物+ルルーシュの荷物を平然と運ぶ姿を見ていると、スザクはホントに化物じゃないかと思う。
そんな旅の間におっさんたちの躾がようやく功を奏し、その目立つ容姿が常に人目を引いている事を理解し、大きなコートと帽子だけではなく、もともと長めの前髪で顔を隠すようにもなった。
ルルーシュと行動する最大の理由がその警戒心の薄さだったから、ようやくわかってくれたとほっと胸をなでおろしたものだ。
ルルーシュが目指していた場所は、汽車も飛行機も使えない辺境ではあったが、思ったよりも観光客が来ていた。どうもパワースポットとしても有名なんだそうで、確かにものすごい現実離れしたような景色だった。自然が生み出した芸術ってこういう事を云うんだなと、これだけ長く生きて始めて思った。
今までは人に紛れて目立たないよう暮らす事ばかり考えていて、世界各地を回っても観光なんてしていなかったことに気づく。どうせならあちこち見て歩くんだった、特に人工物は老朽化などで消える可能性が高いんだから、今後は観光もしながら世界を回ろう、こういう神秘的な場所を目指しながら歩くのも悪くないと思うようになった。
そんな俺たちの旅は出会いから1ヵ月以上続き、そしてあのパントマイムショーが開催された町へと至ったわけだ。
「駄目だ、吐く」
この後も暫くの間、といってもブリタニアに行くまでだが、三人で行動する事は無事決定。だけど、ルルーシュが回復しない。
何からって、二日酔いからだ。祭りが終わった解放感で飲めや歌えの宴会があったのが昨日から今日の朝にかけて。スザクはザルだし、俺もそこそこ強いがルルーシュは質の悪い酒を飲むと悪酔いしてこうして潰れる。既に何回か経験しているのだが、ルルーシュはどうにも喧嘩を売られると買う傾向があり、「子供はあまり飲むなよ」とか「若いくせにそろそろ限界か」と芸人たちに煽られて、ムキになって飲んでしまった。こうなる事が解ってたから俺たちは止めたんだが、下戸だと思われた事がプライドに響いたのか知らないが、俺でも躊躇する度数の酒をがんがん飲むから、急性アルコール中毒を本気で心配したほどだ。
ルルーシュはどうにか酒盛りを乗り切ったが、まあ、見ての通り二日酔い。いや、このままなら明日も動けないだろう。
さっきまで顔色はともかく結構平然として見えたが、完全にカラ元気で、とうとうその余裕も無くなり今はベッドで蹲っていた。
「だーかーら。昨日無理すんなって言っただろ」
「無理などしていない」
「はいはい、どうする吐くか？って、お前さっきも吐いてただろ？」
「いや、もう何も出ない」
だろうな。出るとしたらさっきから飲ませている水ぐらいだ。急性アルコール中毒は避けられたが、それに近い状態にまでなっていたんだろう。危ない危ない。いくら自衛していると偉そうに言ってても、こんな風に酔い潰れたら終わりだろうに。
それに、俺は死なないが、こいつは酒で死ぬ可能性があるんだから、大人の俺がしっかり止めるべきだった。これは反省だ。
「君、ホントにお酒弱いね」
呆れたように言ったのはスザク。こんなになるなら飲んじゃ駄目だろうとあきれ顔だが、俺は内心焦った。うわっ、お前空気読めよ。今それ言っちゃ駄目だろう。
「はぁ？俺のどこが酒に弱いって？」
ものすごく機嫌が悪そうな声でルルーシュはうめいた。大声だと吐きそうになるから声には力がない。
あーあ。ほらみろ。どんな状況でも簡単に喧嘩を買うんだよこいつ。
「弱いだろ？あの程度の量でこれなんだから、弱いって認めなよ」
「俺は弱いわけじゃない」
「じゃあ今のそれは何さ？」
「おいおい、止めろってスザク」
「やめる？何を？やれもしない事を無理にやってこんな風になるなら意味無いだろ？自分でできる事かどうか見定められないなら、僕たちの言う事を聞くべきだったんだ」
飲み過ぎだ止めておけ、こいつらに乗せられるなと確かに止めたが、出会った最初の頃、俺たちも同じように煽ったから余計こいつが意地になってるんだろうと俺は言いたい。俺たちにも原因があるんだよ。スザクはその辺忘れてるんじゃないだろうか？
「やれもしない？ふざけるな！」
「できてないだろ？だから二日酔いになんてなるんだ。こうなるのは解ってたのに、カッコつけて飲んだりするのやめなよ」
あーやばい！やばいなんてもんじゃない。具合悪くて顔が青く動くのもつらそうだったルルーシュは、完全に切れる寸前になってる。それなのにこの馬鹿は！
「すとっぷ！まて！まてまて！あー、ルルーシュは起きるな寝てろ。お前この三日疲れきってたのにあれだけ飲んだから体が付いてこなかったんだよ。体調悪いとそんな事もあるさ」
今にも怒鳴りそうになっていたルルーシュにそういいながら起こしかけていた体を無理やりベッドに戻す。ペットボトルがほぼ空だったので、流れるような動作で冷蔵庫から新しいペットボトルを取り出し、ベッドサイドのテーブルに置いた。
「自分の体調も管理できなかったってことだろ？だから」
「すとーっぷって言ってるだろスザク。大体、こいつが疲れ切った原因は昨日までの祭りだろ。疲れきってるこいつを引きずりまわしたのだれだ？俺らだろ？自己管理出来なかった原因は俺たちなの。オーバーワークさせた自覚ないのかお前」
それを言われるとスザクは弱い。
疲れきって歩くのもきつくなってたルルーシュを車椅子に押し込んでまで連れ歩いたのはこのスザクだ。座ってただけだと言いたいだろうが、人ごみの中にずっといるだけでも疲れるものだ。体力馬鹿に最後まで付き合った俺らはすごいんだぞ？まあ、俺は不老不死だからすぐに全快するが、こいつは普通の人間なんだからきっちり休ませなきゃ体力の回復なんてむりだ。
「たとえそうだとしても」
「はいはい、解った。その話はおじさんが聞くから。な？ルルーシュ、お前は寝てろ。昼飯も何か軽いの買ってくるから、一人で出歩くなよ？鍵も掛けていくからな」
まだ文句を言い足りないスザクを引っ張って、俺は部屋を後にした。
コテージの外に出て、少し離れた所までスザクを引っ張りようやく人心地つく。ルルーシュの状態が悪いから、このコテージでの宿泊は一日延長済みだ。祭りが終わったこの地域では次の予約も無かったらしく、すんなり延長出来たのはラッキーだった。
「なあスザク、お前もうちょっと考えて話そうぜ？」
近くの店へ向かう道のりで、俺は不機嫌な顔で横を歩くスザクに言った。なんで僕までと呟いていたが、お前の頭を冷やすためだと気づけ馬鹿と心の中で言っておいた。
「考えてるよ、彼よりはずっとね」
「あいつの体を心配するのは解るけどさ、もう少し相手の気持ちを考えろって言ってるのよ俺は。あんな言い方したらルルーシュがキレるの解ってるだろ？」
「でも、彼の考え方がっ間違っている事を、ちゃんと教えないと駄目だろ」
「だからさ、言い方の問題だって。わざわざ相手を怒らせる言い方してどうするんだよ？お前が過保護なのは解ってるし、悪気がないのは解ってるよ？でも、あれじゃそれを理由に喧嘩を売ってるようなもんだぜ？」
ルルーシュもスザクが過保護だって解ってる。だから言い方はどうあれ自分を心配しての発言だって、あいつなら分かるはずだ。あとは冷静になる時間をつくるだけでルルーシュは大丈夫だろう。
だから問題は、こっちだけだ。
「君たちはよく僕を過保護って言うけど、僕は過保護じゃないよ」
「どこがだよ！？」
不貞腐れたように言われた言葉に、俺は驚くしかなかった。
「たしかに僕は君達の事を気にしてるし、護りたいとは思うよ？君はいい人だし、ルルーシュは子供だ。だけどそれだけだ。それに僕は・・・ルルーシュの事が嫌いだから」
「は！？」
まじか？まじで言ってるのかこいつ！？ルルーシュに対してあれだけ過保護になってずっと気にしてる癖に嫌いとか！？うわーおじさんいまどきの若い子の気持ち解らないな！まあ当然か、俺ら百歳以上年離れてるもんな！爺と若者の考えが通じるはず無いよな！・・・って、いやこの話は年齢関係ないよな？現実逃避するなよ俺。
うわ～こいつよく解らんけどめんどくせぇと思いながら、不貞腐れた青年をひきつった笑顔で見つめた。
*********
話の時間軸がかなり前後しました。
出会って1ヶ月以上経った頃から始まって、一旦三人が出会った頃まで時間が戻って、また1ヶ月以上経った頃に戻ってきました。
*********
